少人数私募債とその発行要件


 岡山市の司法書士の福島良太です。


 中小企業の方の資金調達の手段の1つとして、「少人数私募債」の発行があります。「少人数私募債」は、取引先や知人などの特定の者を対象として、社債を発行することで資金調達をすることができる制度です。銀行などの金融機関から融資を受けるのではなく、縁故者から直接、資金を調達することができます。



◎メモ◎

直接金融:株式の発行、社債の発行

間接金融:金融機関からの融資


 「楽天グループ」が令和5年1月27日に社債の発行をして、2500億円の資金調達をしました。「社債」発行は大企業がするものではないの?と考えられる方がいるかもしれませんが、中小企業でも社債を発行することはできます。


◎メモ◎

公募社債:一般の投資家を対象に発行する社債。

私募社債:特定の投資家や関係者を対象に発行する社債。

少人数私募債 :募集対象者数が50名未満の社債


 楽天グループの発行する社債は「公募社債」になります。この場合、日本の金融商品取引法に基づいて、有価証券届出書を金融庁に提出する必要があります。


 中小企業の方にオススメの社債は「少人数私募債」になります。なぜなら、有価証券報告書の提出などの行政手続きが原則、不要になるからです。取締役会の決議(or株主総会)で、発行をすることができるので、手続きの負担が軽減されていて、スピーディーな資金調達が可能になるのです。少人数私募債のメリットは「手続きの簡素化」の他にもあります。


◎メモ◎ 社債の魅力

柔軟な条件設定: 特定の者が対象なので、無担保償還期限が長期の社債が発行可能です。通常、返済も償還期まではする必要がありません。

社債管理者の設置不要:社債管理者は、通常、銀行や信託会社などがこの役割を担います。設置は不要なので、管理コストを削減できます。

金融機関の審査不要:社債は、銀行などの金融機関を通さずに、直接投資家からお金を借りるので、銀行のような審査が必要ありません。

利率を自由に設定:社債の利率は、企業と投資家が話し合って決めるものです。

法人変更登記不要:「募集株式の発行(増資)、ストックオプション(新株予約権)の発行」などをしたときは、法務局へ変更登記が必要になります。一方、社債についても、新株予約権付社債を発行する場合は、登記が必要になりますが、原則、法務局での変更登記をする必要はありません。


▢コラム▢

 社債の利率への利息制限法(元本の額が100万円以上の場合,利率は年15%)の適応について、原則、利息制限法の適応はない旨の判例があります。(最高裁第三小法廷令和3年1月26日)この判例では、「特段の事情」があるときを除き、利息制限法を超える利率を社債に設定することは可能であることを示していると考えられます。


 次に「少人数私募債」の要件について説明をします。少人数私募債に該当する社債であるためには、以下の要件を満たす必要があります。


法人であること:社債を発行することができるのは、株式会社、合同会社などの法人だけです。個人では発行できません(会社法676条)

勧誘対象が50名未満: 縁故者など、特定の者を対象とする必要があるので、不特定多数を対象にはできません(直接勧誘)。一方で、金融のプロ(銀行など)がいないことも条件です。また、6か月以内に発行した同条件の社債は、50名計算に含みます。

取得者から50名以上に譲渡できないこと:50名以上に譲渡できると、少人数私募債ではなくなります。そのため、一括譲渡以外の社債の譲渡の禁止、社債の分割制限をします。


 1億円以上のお金を社債で集めるとき(社債の発行総額が1億円以上)は、以下の事項の引受人への通知が必要になります。具体的な記載例も載せています。


転売制限の明記:通知事項として、転売制限を明記する必要があります。取得者から50名以上に譲渡できると、上記の勧誘対象が50名未満の要件を満たさなくなるからです。又、社債券を発行する場合は、社債券に記載をする必要があります。

有価証券通知書、有価証券届出書を提出していないこと:通知書への記載が必要になりますが、行政手続きは不要です。


◎メモ◎ 転売制限の記載例

1. 社債権者は、その有する社債を一括して譲渡する場合以外に、社債を第三者に譲渡することができない。

2. 本社債の性質により、本社債は分割することができない。


◎メモ◎ 有価証券通知書、有価証券届出書を提出していないことの記載例

1. 金融商品取引法による届出の免除 本社債に関しては、金融商品取引法第4条第1項の規定による届出は行われていない。


 次に、銀行や信託会社等の社債管理者の設置を不要にするための要件を説明します。社債の総額が1億円以上(会社法702条)、又は社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が五十を下回る(会社法施行規則169条)という条件なります。


 社債の総額1億円の要件を満たすかどうかは、容易に判断できます。総額が1億円以上かどうかを判断して、1億円を下回るときは、「社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が五十を下回る」ケースに該当するかどうかを検討する必要があります。以下、具体的な金額を例にして解説をします。


◎社債総額が5,000万円の場合 ◎

各社債の金額の最低額が100万円の場合: 5,000万円 ÷ 100万円 = 50 この場合、得られる数は50となり、条件「50を下回る」を満たさないため、社債管理者の設置が必要になります。

各社債の金額の最低額が200万円の場合 5,000万円 ÷ 200万円 =25 この場合、得られる数は25となり、条件「50を下回る」を満たすため、社債管理者の設置は不要になります。


 社債管理者の設置を不要とできるのが少人数私募債の大きなメリットですので、条件を満たしているか確認ください。


◎メモ◎ 社債管理者の設置をしない記載例

 本社債は、会社法第702条ただし書の要件を充たすものであり、本社債の管理を行う社債管理者は設置されていない。


 今回は、「少人数私募債」に該当する社債の要件を説明しました。少人数私募債は、特定の人たち向けの資金集めの方法です。手続きはシンプルで、良い条件でお金を集められることがあります。でも、どうやってお金を集めるかや、お金を返す計画には、注意が必要になります。


(文章作成者:司法書士 福島良太)

以下、この記事のまとめになります。


〔少人数私募債について〕

 定義: 特定の者(取引先や知人など)を対象として、社債を発行し資金調達をする制度。

 目的: 銀行などの金融機関を通さず、縁故者から直接資金を調達する。 


〔社債の種類〕 

直接金融: 株式や社債の発行を通じての資金調達。 

間接金融: 金融機関からの融資を通じての資金調達。 

公募社債: 一般の投資家を対象として発行する社債。 

私募社債: 特定の投資家や関係者を対象に発行する社債。 

少人数私募債: 募集対象者数が50名未満の社債。 


〔少人数私募債のメリット〕

行政手続きが簡素化される。 

有価証券報告書の提出が原則不要。 

社債管理者の設置が不要で、管理コストを削減。

金融機関の審査が不要。 

利率を自由に設定可能。 


〔少人数私募債の要件〕 

法人であること。 

勧誘対象が50名未満であること。 

取得者から50名以上に譲渡できないこと。

 〔注意点〕 

社債の発行総額が1億円以上の場合、特定の通知が必要。 

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