岡山市の司法書士の福島良太です。
本記事は、ファクタリングを「利用したい人」(資金調達をしたい人)向けではなく、ファクタリング事業を「運営する側」「これから立ち上げる側」の目線に特化して解説します。
ファクタリング事業は、高い収益性が見込める一方で、債権回収不能など事業の根幹を揺るがす重大なリスクと隣り合わせです。今回は、ファクタリング事業を運営する上でのメリット(収益性)とデメリット(法務リスク)を整理し、そのリスクに対して事業者が講じるべき対策を記載します。
◎メモ◎ ファクタリングとは
ファクタリングとは、会社の売掛金を支払期日よりも前に買取をしてもらうことです。例えば、12月に500万円の入金予定ではありますが、11月末の時点で、現金がなく当月の支払いができない場合に利用されるケースが多いです。ファクタリング会社が手数料を割り引いて(例)480万円で買取をするのです。法的な性質では、お金を融資しているのではなく、債権(売掛金)という資産を売買しているのです。
ファクタリングはお金を融資するのではなく、債権を売買しているので、貸金業の許可は必要なく行うことができます。貸金業では、利息制限法の適用がありますので、金利の上限は法定されています。一方、ファクタリングは貸金業ではないので、利息制限法の適用はないと解されます。
※償還請求権が有の場合の、リコースファクタリングでは、貸金業の許可が必要です。
◎コラム◎ ファクタリングに利息制限法の適用はないのか?
ファクタリングが「真正な債権の売買」である場合は、利息制限法の適用はないと解されます。これが、ファクタリングが高い収益性を上げることができる理由です。ただし、一般的な相場を大きく超える手数料を取っている場合は、民法の公序良俗違反」として、契約が無効となるリスクはあります。
ファクタリングは、債権の売買であるため、貸金業の規制にならないと解されます。では、「債権の売買」であることは、どのように判断をされるでしょうか?ファクタリングの形式を取っていても、実質が金銭消費貸借であると判断されると貸金業に規制をされます。ファクタリングと貸金業との違いは以下のポイントで判断されると解されます。
◎ポイント◎ 償還請求権の有無
ファクタリングは、譲渡人(A)が、第三債務者(B)に対して有する債権を譲受人(C)が買い取る形式です。では、譲受人(C)が譲渡人(A)から買い取った売掛金を、第三債務者(B)から、回収できなかった場合はどうなるでしょうか?第三債務者(C)が支払えない場合に、譲渡人(A)に対して、買戻し(償還)を請求することが可能な場合は、実質が金銭消費貸借と判断されます。一方、買戻しを請求できず、未払いのリスクを譲受人が負担する場合は、真正なファクタリング契約と解されます。
◎コラム◎ 給与ファクタリングは違法
真正な債権の売買について理解するのに、「給与ファクタリング」の違法判決がわかりやすいです。例えば、会社員の方が、来月の給与をファクタリング会社に買い取ってもらうことは、実質的に貸金業であると裁判所で判断されました。これは、給与という性質上、会社は、必ず譲渡人に支払う必要があります。この場合、給与債権が譲受人に移転したとはいえず、実質的に資金の移転が起こるだけであり、貸付と同視されるためです。
次に、ファクタリングの形式について解説をします。ファクタリングは、2社間ファクタリング、3社間ファクタリングの形式があります。実務上、中小企業では、2社間ファクタリングが利用されることが多いです。
◎メモ◎ 2社間ファクタリングとは
譲渡人と譲受人の2社間で債権譲渡契約を締結します。この時点で、売掛金は譲受人に移転をしますが、売掛金を回収するのは、譲渡人という形態です。譲渡人は回収後、速やかに譲受人に受け取った売掛金を支払います。譲受人は、債権譲渡の事実を売掛先に知られてしまうと、今後の事業継続に影響が出る恐れがあります。売掛先に知られることなく、ファクタリングを行うことができるため、多くの会社のこの方式を利用しています。
ファクタリングは、高い収益性が見込める事業ですが、リスクも存在しています。債権譲渡を受けた場合に、その債権が回収できなくなるリスクです。そうなると事業者にとっては大きなダメージとなってしまいます。具体的にどのようなケースで債権回収が不能になるのでしょうか。
◎債権が回収不能になるケース◎
1. 譲渡人が破産、差押、仮差押えを受けた場合
2. 譲渡人がファクタリングした債権が、架空の債権であった場合
3. 譲渡人が債権を2重譲渡(他社のファクタリング会社にも売る)場合
4. 譲渡人が売掛金を回収後に譲受人に支払いをしない場合
5. 第三債務者に支払能力がない場合
など、あります。
ファクタリング事業は「貸金」とは異なり、利息制限法の適用を受けない(※)ため、高い収益性が見込めるビジネスモデルです。 (※真正な債権売買(ノンリコース)の場合) しかし、その高いリターンの裏には、「架空債権」「二重譲渡」「譲渡人の破産や使い込み」といった、買い取った債権が回収不能となる重大なリスクが常に存在します。 特に、実務で多用される2社間ファクタリングは、売掛先に通知しないという性質上、これらのリスクが顕在化しやすい形態と言えます。
ファクタリング事業を安定的に運営し、収益を上げ続けるためには、これらのリスクを感覚や経験で管理するのではなく、法的な対抗手段でヘッジ(回避・軽減)することが不可欠です。
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