令和6年4月から相続登記の申請が義務化されます。法務局が、相続登記が行われていない不動産の相続人の方へ「お知らせ」を送っています。法務局から届いた「お知らせ」を見て、「相続登記をしないといけないのはわかったけど、手続きの方法がわからない・・・」という方に向けて、司法書士が相続登記申請の流れを解説します。
〔相続登記義務化の背景〕
不動産登記は、登記申請が義務化されていませんでした。登記申請をしていなくても、罰則を受けることがないので、土地や建物を相続した後も相続登記がなされず、所有者の不明な土地が増え、空き家問題などの社会問題になっています。問題解決のために、令和6年4月からは、登記申請が義務化となり、10万円以下の過料の適用対象となります。岡山での相談会でも法務局からのお知らせを受け取った方からの相談が増えています。
〔相続登記申請の流れ〕
相続登記を申請するまでの手続きの流れは以下の通りになります。
(1)戸籍関係書面の取得・・・誰が相続人であるのかを証明するために、登記申請書類として法務局へ提出します。
(2)遺産分割協議書の作成・・・法定相続分で相続をするときは、必要ありません。法定相続分と異なる持分で取得するとき(相続人の一人が不動産を相続する、など)には、遺産分割協議書の作成が必要となります。
(3)登記申請書の作成・提出・・・法務局に登記を申請して、登記が完了すれば、相続登記の手続きは完了となります。
(1)① 戸籍の取得
相続登記を申請するには、被相続人の戸籍関係書面を取得することから始まります。戸籍は本籍のある市町村役場で取得することができます。結婚などにより、本籍が移転している場合は、婚姻前の市町村役場に請求をすることになります。
(例)岡山市で生まれて、婚姻で横浜市に本籍を移した後、横浜市で死亡した場合
・横浜市で戸籍を取得→岡山市で戸籍を取得
戸籍関係書面の取得は遠方の場合でも、郵送で取得することができます。手数料は郵便局で定額小為替を購入して支払うことになります。費用は、戸籍が何通あるかわからないと正確な金額はわからないので、多めに定額小為替をいれておくことをオススメします。市町村役場で「相続で使用するので、出生から死亡までの戸籍を出して欲しい」と伝えると、出生から死亡までの戸籍を出してくれます。また、戸籍の次の請求先(戸籍を移していたケース)を、戸籍から読み取って次の請求をしていきます。上記を繰り返して、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めます。
戸籍関係書面の取得を専門家に依頼せずに、時間をかければ、本人で行うことも可能です。市町村役場へ「相続のための戸籍一式を下さい」と伝えると丁寧に対応をしてくれます。「次はどこの市町村役場へ請求すればいいですか?」と聞けば、答えてくれることもあります。
戸籍には有効期限は定められていません。相続のときに、預金口座を解約をするときに、被相続人の戸籍一式(出生から死亡まで)を提出していることもあります。そのときの戸籍が残っていれば、その戸籍を使用できます。
②相続人の確定
取得した戸籍関係書面から相続人を確定します。相続人が誤っていると、その後の遺産分割協議、登記申請をできなくなるので、正確に読み取る必要があります。特に、数次相続が発生しているケースは、相続人の確定の難易度が高くなるので、専門家に依頼をすることをオススメします。
(2)遺産分割協議書の作成
相続人全員で、被相続人の不動産の分け方を決めます。遺産分割協議で決定した内容を遺産分割協議書にします。遺産分割協議書には、相続人全員の実印での押印が必要になります。そして、印鑑証明書に押印した印鑑の印鑑登録証明書を法務局に提出する必要があります。
遺産分割協議書については、書籍、インターネット上にも雛形が掲載されていることもあります。雛形を元に作成をすることもできますが、登記申請に必要な事項(被相続人の死亡日や相続する不動産など)が記載されていないと、登記の申請が通りません。遺産分割協議書の作成や内容については、法務局へ相談をしても教えてもらえません。法律知識があり、書類作成に慣れているのであれば、専門家へ依頼せずに作成することも可能ですが、一般的に作成の難易度は高いと考えます。
(3)登記申請書の作成・提出
戸籍関係書面の取得、遺産分割協議書の作成ができたら、法務局へ相続登記の申請をします。
①登記申請書の作成
法務局へ提出する登記申請書を作成します。法務局に、相続登記の一般的な雛形が掲載されているので、それを元に作成をすることもできます。
②登記申請書の提出
法務局へ登記申請書、添付書面(戸籍、住民票など)を提出します。提出方法としては、持参する方法、郵送をする方法、オンラインで申請をする方法、があります。遠方の方でも、直接、法務局まで行かなくても、郵送で相続登記の申請をすることができます。登記申請書と一緒に、添付書面(戸籍関係書面、住民票、印鑑登録証明書)を提出します。そのときに登録免許税も支払います。書面申請、郵送申請のときは、収入印紙を貼付して提出します。収入印紙は郵便局の他にも、法務局の窓口で購入することができます。
(提出書面の例)
・登記申請書
・収入印紙
・被相続人の出生から死亡までの戸籍関係書面
・各相続人の方の現在の戸籍謄本
・不動産を相続する方の住民票
・遺産分割協議書に押印した印鑑登録証明書
③登記完了まで
登記を申請して、法務局で審査を行い、問題がなければ登記が完了します。期間は1週間ほどになります。法務局のHPで登記完了予定日が掲載されているので、そこで確認できます。
登記申請の書類に不備があったときは、法務局から連絡があり、補正をすることになります。遠方のケースでは、補正のために法務局まで出向くことが必要になることもあり、法務局の営業時間しか対応をしてくれません。場合によっては、登記が却下になることもあり、書類を作り直すこともあります。専門家へ依頼をしておくと、補正にも対応をしてくれます。
今回は、相続登記申請の流れを解説しました。相続登記の手続きは、時間と手間をかければ、本人でも申請は可能です。相続登記は上記の手続きで進めることができますので、ご参考にしてください。
作成者:司法書士 福島良太(岡山県司法書士会 登録番号920)
〔相続登記Q&A〕
Q1. 相続した不動産が他にないか調べたいのですが、どのようにして調べることができますか?
A1. 調べる方法としては、「不動産の権利証」を確認します。権利証がない不動産でも、所有している可能性があるので、「固定資産納付通知書」も調べます。ただし、不動産が非課税のときは、固定資産税通知書には記載されていないあることもあります。名寄せ帳も取得しておくと非課税物件でも記載されていますので、名寄せ帳も取得しておくといいでしょう。その他にも、公図を取得して近隣の登記情報を取得して調べると見落としが防げます。
Q2. 被相続人の登記簿上の住所と、住民票の住所が異なるのですが、どうすればいいですか?
A2. 住民票も除票で、登記簿上の住所とつながる場合は、住民票の除票で証明できます。住所移転が複数回の場合は、戸籍の附票を取得することで、住所をつなげることができます。登記をしたのが古い場合は、住民票、戸籍の附票でもつながらないケースもあります。改正原戸籍附票を取得する方法などがありますが、ここでくると専門家への相談をオススメします。
Q3. 相続登記の相談はどの専門家にすればいいですか?
A3. 相続登記の専門家は司法書士・弁護士になります。司法書士は不動産登記の専門家です。戸籍集め、遺産分割協議書の作成、登記申請まで行うことができます。登記に関する書類の作成、相談を司法書士・弁護士以外が行った場合は、司法書士法違反となり、刑事罰の対象となります。登記の申請書の作成だけでなく、相談を行う時点で司法書士法違反となります。相続登記は司法書士へご相談下さい。
Q4. 相続登記をしないデメリットは、過料の他にもありますか?
A4. 相続登記がされていない不動産は、一般的に売却や担保設定ができなくなります。自己が所有、管理している不動産でも、自由に処分ができなくなる点があります。権利関係が複雑になり次の世代にも負担をかけることになります。
Q5. どの法務局へ申請すればいいですか?
A5. 不動産の所在地を管轄する法務局になります。法務局のHPを見ると、地区を管轄する法務局を確認することができます。登記を申請する法務局を間違えると、登記申請は却下されますので、ご注意ください。
Q6. 不動産を取得すると、不動産取得税がかかると聞きました。費用はどのくらいでしょうか?
A6. 相続により不動産を取得した場合は、不動産取得税を支払う必要はありません。不動産取得税は不動産を購入や贈与などにより取得したときにかかる税金です。
Q7. 不動産の遺産分割協議をしています。法定相続分で分けるメリットとデメリットを教えてください。
A7. 法定相続分で不動産を相続するメリットは、親族間の関係に与える影響が少なくなることがあります。法律の規定に従って分配しているので、誰か一人が取得することに比べて公平と感じられることが多いと考えます。デメリットは、不動産を処分(売却など)するときに、全員の同意が必要となることです。自分は売りたいけど、意見が合わないときに、自由に処分ができなくなります。
Q8. 戸籍関係書面は、不動産登記の他にも、預金解約などで必要なのですが、返してもらえるのですか?
A8. 法務局へ原本還付の手続きをすることで返してもらえます。戸籍をコピーして、原本と出すことで還付してもらえます。ただ、戸籍の枚数は多いので、コピーをすると膨大な数になります。相続関係図を作成して、提出するこで、戸籍のコピーがなくても還付をしてもらえます。この他にも、法定相続情報一覧図を作成しておくと、他の手続きでも戸籍の束を提出しなくても対応してもらえることが多いので、法定相続情報一覧図を作成しておくといいでしょう。
Q9. 不動産が複数あるのですが、1回の申請でまとめてすることはできますか?
A9. 不動産の所在地を管轄する法務局が同じときは、1回ですることができます。例えば、不動産が岡山市と神戸市にあるときは、それぞれの法務局で申請が必要になります。
Q10.祖父が亡くなり相続登記をしていない間に父が亡くなりました。登記の申請は、1回にまとめてできますか?
A10. できる場合とできない場合があります。原則として、祖父の相続の登記をしてから、父の相続登記を申請することになります。祖父の相続人が父だけの場合などは1回でまとめてできます。数次相続のときは、登記申請書の作成、遺産分割協議書の作成の難易度は高くなりますので、司法書士へ相談することをオススメします。
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